なぜなってしまう 「ギャンブル依存症」

子育てに一段落「心に穴」 県内女性の体験談から

 パチンコがしたい−。そんな衝動が抑えられない精神疾患「ギャンブル依存症」。生活をかえりみず、借金を重ね、多重債務や家族離散、犯罪にもつながる。病気であることが周囲に理解されず、誤解や偏見が回復を阻み、さらに事態を深刻化させることもある。現在、治療に取り組む県内の女性(38)はその悲痛な体験を語った。

 4年前。女性は、結婚を機にやめていたパチンコに再び通い始めた。きっかけは下の子の小学校入学。幼稚園では率先して役員を務め、わが子のパジャマやバッグまで手作りするなど「子育てが生活のすべてだった」という専業主婦。「子どもに手がかからなくなり、必要とされなくなった気がした」

 大手企業に勤める夫は出張がち。時間を持て余して、ふと立ち寄ったパチンコ店。「勝った時の快感が忘れられなかった」。数日通うと、常連から「今日も出しよるね」と声を掛けられた。「子ども以外と話さない日も多く、居心地が良かった」。最初は、誰かと話がしたかった。

 子どもが学校と習い事に通っている間、1日2回パチンコに通った。遊ぶ額は数万円単位。生活費のやりくりでは足りず、消費者金融から借りたり、ブランド品を質に入れた。1年半後、借金は100万円に膨らんだ。

 どうすることもできず、夫に打ち明けた。「もうパチンコはしない」と約束し、お金を融通してもらった。夫への返済のため、仕事を始めると、月々の支払いの残りで再びパチンコ通いが始まる。夫に見つかって、夫婦げんかが絶えなくなった。休日になると、夫は子どもたちを連れて外出。女性は孤独を深めた。

 パチンコ台に向かっている間だけは、何もかも忘れることができた。「仕事で遅くなるね」。子どもにもうそをつき、家事もそこそこにパチンコ店に通う。「心のどこかで、自分が悪いのは分かっていた」。再び借金を重ね、今度は実家の母親に返してもらった。

 のめり込む女性を見て、看護師だった母親は依存症を疑った。女性には以前からうつ傾向があった。「一度、病院で調べてもらったら?」。女性の夫に勧めても「何とかしますから」と断られた。それ以上、言葉は継げなかった。

 その頃、女性はインターネットの交流サイトで、ある男性と知り合う。「お金を貸してほしい」。もう夫にも母にも相談できなかった。「口座を売れば金になる」。勧められるまま口座を売り、通帳詐欺に手を染めた。「借金が返せて、パチンコもできる」。罪の意識はなかった。

 女性は結局、詐欺罪で在宅起訴。しかし、パチンコ通いは続いた。資金を稼ぐため、即金で1回5千円以上になる宴席のコンパニオンも始めた。「だんだん、お金の価値が分からなくなった」。パチンコに加え、ブランド品も買いあさり、3カ月で4百万円の借金を作った。「もう、罪悪感しかなかった。でもやめられなかった」

 今年2月、女性宅を訪れた母親は多額の借金の督促状を見つけた。「死にたい…」と口にする娘のために、母親はその日のうちに病院を手配した。

 ギャンブル依存症と診断された女性は現在、県外の病院に入院している。「今まで自分勝手でだめな人間だと思いこんできた。でも、病名がつけられても、それで許してもらっているだけのような気がする」。退院後は家族と離れ、実家に戻って生活を立て直すつもりだ。

 母親は借金の整理を弁護士に頼み、病院代も肩代わりしている。「気づいていたのに、娘を追い詰めた。『親ばか』『甘い』と言われても、黙ってお金を貸すことしかできなかった」。女性も母親も、まだ苦しみの中にいる。

■生活よりギャンブル優先 家族の治療も必要

 ギャンブル依存症は、自らの意思で使う金額や時間をコントロールできず、生活や仕事よりもギャンブルを優先させる慢性的な病気だ。

 専門的な治療機関の一つ、西脇病院(長崎市)の松元志朗医師(39)によると、同依存症になりやすいのは「お人よし、気配り上手、頑張り屋さん、自己評価が低い人」。この中には複雑な家庭事情などで思春期に反抗期がなかったケースもあり、「人との接し方が分からなかったり、トラブルを起こしても責任の取り方が分からず、ごまかしてギャンブルにのめり込んでいく」傾向がある。

 体調が悪化するアルコールや薬物と違い、ギャンブル依存は借金や犯罪などを経て、病院に相談する人が多い。借金返済などで家族も苦しむケースが多い上、安易な借金の肩代わりは依存症を助長するだけで、「家族も一緒に治療することが不可欠」という。

 治療はGA(ギャンブラーズ・アノニマス)と呼ばれる自助グループで、互いの内面を語り合う集団心理療法が一般的。県内にも二つのGAが活動している。しかし、専門的な医療機関は九州では長崎、福岡、熊本の3カ所と少ないのが現状だ。

 厚生労働省によると、2009年度の研究で、成人男性の10人に1人が依存症の疑いがあると推計。県精神保健福祉センターへの12年度の相談件数は127件で、06年度の225件をピークに100件以上で推移している。