説:視点 パチンコ通報条例=論説委員 人羅格

◇「暴挙」の重い問いかけ

 暴挙か、それとも自治の領域か。兵庫県小野市は生活保護費などの福祉給付がパチンコなどで浪費されないよう受給者に求め、市民の情報提供も責務とする条例を制定した。

 匿名である受給者の行動に関する報告を市民に求める規定は行き過ぎだ。だが、生活保護が本当に受給者の自立支援に使われているのかという制度不信が背景にある点を軽視すべきではないと思う。

 条例は生活保護の不正受給防止に加え、受給者が給付をパチンコやギャンブルで浪費することを防ぐため市、受給者、市民の責務をそれぞれ定めた。

 問題はパチンコや競輪などで生活維持に支障を来さないよう受給者に求め、常習的なケースは市への情報提供を市民の責務とした点だ。罰則がないとはいえ兵庫県弁護士会は「市民の監視の名の下、プライバシーを暴き出す風潮が作出されかねず、極めて危険」と反対する。違憲の疑いすら指摘されている。

 生活保護に使途制限はなく、生活保護法は「常に能力に応じ勤労に励み支出の節約を図り、生活の維持、向上に努めなければならない」と定める。条例を主導した蓬莱務市長は規定は法の範囲内と主張する。

 小野市の生活保護受給率は全国平均よりかなり低い。市側は条例は受給から漏れた要保護者の通報も求めているとして、給付抑制目当てではないと説明。蓬莱市長は「監視ではなく見守り」としたうえで「市民もまた意識改革して自らやれることが問われる」と言い切る。

 生活保護が個人情報である以上、外部通報を求める制度は矛盾する。「監視社会」に道を開くおそれも否定できまい。

 一方で「生活保護受給者がひんぱんにパチンコをするようではおかしい」との納税者の感情にどう向かうかという問題は残る。小野市に寄せられた意見の6割は条例に賛成という。

 ケースワーカーやNPOだけでなく、依存症の場合は医療機関もきめ細かく対処すべきだろう。小野市は「市民の責務」を掲げたが、実際は多くの自治体で手が回りきらず、体制構築を迫られているのではないか。

 受給者が200万人を超す中、昨年は不正受給が注目を浴びた。監視が偏見を助長しかねないのと同様に、支出への納税者不信が募れば保護が必要な人々全体が色めがねで見られるおそれもあるはずだ。

 条例を「大衆迎合的な行政の責任放棄」と言えばそれまでだ。だが、おそらく問題はそれで解決しない。問われているのは制度そのものへの信頼である。