香港に上場するダイナムは、企業統治、コンプライアンスの模範生

香港に上場するダイナムは、企業統治、コンプライアンスの模範生

  8月2日にダイナムジャパンホールディングスが香港市場に上場することが正式に決まった。ダイナムジャパンホールディングス(以下、ダイナム/資本金50億円)はパチンコ・パチスロホールの運営会社では首位マルハンに次ぐ第2位。2012年3月期の業績は売上高8977億円、経常利益293億円、当期純利益158億円である。7月10日付の日本証券新聞によると、売上高では高島屋 <8233> やファーストリテイリング <9983> を上回り、経常利益では日清食品ホールディングス <2897> やドン・キホーテ <7532> を上回るという。

  企業規模や財務内容で言えば東証一部上場でもおかしくない。しかもダイナムは非上場ながら決算短信を四半期ごとにきちんと出していて、アナリスト向けの決算説明会を開催し、日本格付研究所から信用格付も得るなどディスクロージャーは上場企業並み、いやそれ以上に熱心なIR優秀企業である。上場を廃止して非上場企業になったとたんに決算データを全く公開しなくなった吉本興業などとは大違いだ。しかも、コーポレート・ガバナンス(企業統治)は日本ではまだ少数派の「委員会設置会社」で、監査の経営からの独立性を確保している。コンプライアンス(法令遵守)も内部統制委員会や企業行動憲章が存在するなど、オリンパス <7733> や大王製紙 <3880> あたりに爪の垢を煎じて飲ませたいような模範生ぶりである。それなのになぜ、日本で上場できなかったのかと言えば、ダイナムの業種が「パチンコ屋さん」だからである。

  なぜ、クレディセゾンは上場廃止にならないのか?

  パチンコ機器メーカーと違って、パチンコホールの上場は過去に1件もない。チャレンジした会社はある。2005年12月にピーアークがジャスダック市場に上場申請したが、翌年、申請を却下されている。その主な理由はパチンコ業界の景品交換システムの合法性に疑問があり、投資家保護が果たせない恐れがあるとされたことで、これが前例になってパチンコホール運営会社は「ギャンブル性の疑いがある」と、事実上「絶対に上場できない業種」になってしまった。ダイナムも一時は国内上場を検討しながら、あきらめている。そして改めて香港での上場を目指したのである。

  だが、合法性に問題があり「絶対に上場できない業種」だとみなされるのなら、既存の上場企業がパチンコホールの運営会社を傘下に抱えていたら、その企業を上場廃止にしなければつじつまが合わなくなる。事実、パチンコホールを運営する完全子会社を手放した例はある。ダイエー <8263> は「買収した忠実屋の連れ子」だったパンドラを2006年9月に売却している。表向きはダイエーの経営難が理由だが、同じ年のピーアークのジャスダック上場却下、18歳未満の入場への罰則を強化した風営法改正が影を落としている。傘下にパチンコホールを抱えていると、本体に思わぬ火の粉が降りかかるかもしれないと恐れたのである。

  だが同じ流通系でも、セゾングループのクレディセゾン <8253> はパチンコホールを運営する連結会社コンチェルトをいまだに抱えている。私鉄や不動産などの上場企業にも、たとえ連結会社や持分法適用会社ではなくても、資本参加しているケースはある。パチンコホール専業はダメで兼業ならOKという話でもないと思えるが、証券取引所や株主から、関連会社の業務内容それ自体が問題視されたという話は聞こえてこない。

  「合法性」をもう一度、問い直す時期ではないか

  パチンコはそれ自体、ギャンブル性が長年、論議の的になっている。禁止論者は韓国の国会がパチンコを全面禁止する法案を可決し、2007年にパチンコ店が全て閉鎖された事実を挙げ、「日本も見習うべきだ」と西村眞悟氏のように出玉換金の禁止法案の制定を求める国会議員も現れた。ダイナムが国内上場できなかった背景には、そうした空気が「上場などとんでもない」と、証券取引所へのプレッシャーになっていることもある。

  だが、東証以上に企業倫理に厳しいニューヨーク市場(NYSE)やNASDAQには、ラスベガス・サンズ(LVS)やMGMリゾーツ・インターナショナル(MGM)などカジノの運営会社が堂々と上場している。ロンドン証券取引所ではパーティーゲーミングなどの「オンラインカジノ銘柄」が、成長が見込めると投資家の人気を博している。日本では、公営ギャンブルは毎日のように開催されながら、つい先日も「コンプガチャ問題」で射幸性が問題にされるなどギャンブル性に対して敏感で社会の姿勢が厳しい。ダイナムは営業面で「1円パチンコ」のような低貸玉料路線をとってギャンブル性を薄め、社会的認知を得て上場する地ならしを進めていたが、それでも断念せざるを得なかった。
 
  この会社を8月2日に香港に「厄介払い」できると考えるか。それとも有力な新規公開案件を香港にさらわれ、日本の株式市場にとって大きな損失だと考えるか。ダイナムの香港上場をきっかけに、「証券取引所がダメだと言うからダメ」と思考停止するのではなく、もう一度、社会と「ギャンブル」の関係について、またパチンコホール業界の「合法性」について、市場関係者や投資家だけでなく国民全体で、まじめに問い直す時期にきているのではないだろうか。(